甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンとは

甲状腺は前頸部の気管の前に位置しており、蝶が羽を広げたような形をしています。

甲状腺ホルモンは、身体のあらゆる代謝機能に関与し、調節する役割を担っています。熱産生や組織修復や細胞の成長・発達、蛋白合成の促進、さらに糖分・脂質・蛋白質の代謝調節、ビタミンの調整、消化、ミトコンドリア機能、筋肉や神経の動き、血流、ホルモン産生、酸素利用など、様々な作用に関わっています。

甲状腺には、エストロゲンやテストステロンの受容体が存在しており、更年期に伴って性ホルモンが減少すると、甲状腺ホルモンの働きも下がってきます。更年期の症状と甲状腺機能低下症の症状はやや似ていることがあるのはこのためです。

また、甲状腺ホルモンは卵子の成長に影響があるため、これから妊娠をしたいと思っている女性にとっては、大変重要なホルモンです。症状がなくても、是非一度チェックしておくことをお勧めします。

抗甲状腺抗体が高い場合、甲状腺ホルモンの受容体がブロックされてしまい、血中の甲状腺ホルモンの値がよくても、ホルモンの作用が発揮できないため甲状腺機能低下の症状が出てきます。

甲状腺ホルモンであるサイロキシンT4は甲状腺内で産生され、そのほとんどは肝・腎で活性型であるトリヨードサイロニンT3に変換されますが、一部は非活性型のrT3(リバースT3)に変換されます。T2は筋肉や脂肪織での代謝効率を上げる作用があります。

<橋本病>

橋本病は自己免疫の異常によって甲状腺に炎症が起こる病気で、20代後半から40代の女性に多く見られます。抗甲状腺抗体(抗サイログロブリン抗体や抗TPO抗体)が陽性となり、炎症の程度が軽い場合、甲状腺機能は正常範囲で症状はありません炎症が強くなってくると、甲状腺機能が低下して以下のような症状が現れてきます。(抗体が陰性の場合、橋本病ではなく、甲状腺機能低下症といいます。)

甲状腺機能低下を示す症状

・抑うつ

・体重増加

・便秘

・頭痛

・乾燥肌・肌荒れ

・月経不順

・爪の変形やひび割れ

・むくみ

・冷え性、血流低下

・薄毛、脱毛

・眼瞼腫脹

・不眠

・倦怠感

・かすれ声

・話すスピードの低下

・血圧低下・心拍数の低下

・筋力低下

・不安・パニック発作

・記憶力低下

・集中力の低下

・筋肉や関節の痛み

・筋肉の痙攣

・朝のこわばり

このように様々な症状があるのですが、これらの症状ですぐに甲状腺機能低下症を疑う人は意外と少ないのではないでしょうか?しかもほとんどの健診ではホルモンが検査項目に入っていないため、相当数の甲状腺機能低下症は発見されないまま野放しになっていると推測されます。では、どのようにしたら、橋本病がどうかわかるのでしょうか?

橋本病の検査は、まず血液検査で行います。

TSH(甲状腺刺激ホルモン):脳下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺ホルモンの分泌を調整するホルモンです。甲状腺機能が低いと高くなり、高いと下がってきます。

Free T4:甲状腺で作られるホルモンで、ヨウ素4つから構成されます。

Free T3:20%は甲状腺から、80%は肝臓や腎臓でT4から変換されて作られ、ヨード3つから構成されます。T4の約5倍強い作用がある活性型の甲状腺ホルモンです。

抗甲状腺抗体:抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)

脂質代謝にも影響を及ぼすため、総コレステロール、HDL、LDLも一緒にチェックします。

橋本病には、下図のように5つのステージがあり、それぞれのステージによって治療法が異なります。

抗体は陽性、甲状腺機能は正常というステージ3以下の場合は、抗体を下げるための検査と治療を行い、ステージ4以上になっていたら甲状腺ホルモンを補充すると同時に、抗体を下げるアプローチを行います。

・食物アレルギー検査(採血):即時型と遅発型の食物アレルギー検査があります。

・腸内環境検査/腸管侵漏検査(便検査)

・有害重金属検査(オリゴスキャンまたは尿検査)

 

治療/対処法

1)甲状腺ホルモンを補充する

 一般的には、保険適応のある化学合成物のT4製剤としてチラージンSがよく用いられています。

 当院では、海外の調剤薬局からT3とT4の合剤であるArmout ThyroidやNature Thyroidといった製剤も処方しています。T4からT3への変換が迅速に行かない場合があり、T3/T4合剤のほうが効果を体感できる傾向があるためです。

2)栄養素不足を改善する

 糖分、蛋白質、脂質の主要栄養素の他に、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が不可欠ですが、橋本病の方はこの微量栄養素が不足していることが多く見られます。

 栄養素の欠乏というのは、カロリーばかりで栄養素が少ない食事を摂り続けたり、食物アレルギーや腸の炎症、腸内細菌叢の乱れ、特定の薬剤を摂り続けた結果などで生じることが分かっています。

有機野菜や栄養強化食品を摂っていても、胃酸不足や脂肪吸収不良、消化酵素の不足などがあると栄養素の消化・分解がうまくいかず栄養不足の危険性があります。

 これらの不足栄養素を補い、消化・吸収を改善させることで、橋本病の症状が改善されることがあります。医療用の高品質・高濃度のサプリメントを活用されるとよいでしょう。

橋本病で不足していることが多い7つの栄養素

  • ビタミンB1(チアミン)

ビタミンB1は糖質からエネルギーを生成するときに必要とされる栄養素です。

また、蛋白質の消化に必要な胃酸を分泌する時にも必要で、橋本病の改善に重要です。

効果:エネルギー増強、脳機能改善、血圧の安定、耐糖能の改善

  • セレン

セレン不足は橋本病のきっかけの一因とされ、不安や倦怠感、抑うつを引き起こすと言われています。橋本病、バセドウ病、セリアック病、過敏性腸症候群などでセレンを摂取することが推奨されています。抗甲状腺抗体を減らす効果や出産後の橋本病を予防するためにも有効とされています。

  • マグネシウム

マグネシウムは「魔法の栄養素」と呼ばれ、体内で300以上の生化学的反応に必要なミネラルです。免疫や神経、筋肉、骨の構築、心拍の安定、血糖を一定に保つ、エネルギー産生など様々な作用があります。

不足すると、偏頭痛や頭痛、不眠、不安、関節痛、生理痛、音や光の過敏症などの症状が見られます。

長期間マグネシウムを摂取することで、超音波で甲状腺の見え方が改善する、乳腺の結節が改善するなどの報告があります。

  • ビタミンD

橋本病の方は7~9割の高い確率でビタミンD欠乏症が見られ、特に抗甲状腺抗体の存在や橋本病の増悪と関連があると言われています。抗甲状腺抗体を下げるためには、血中のビタミンD濃度を上げる必要があり、60ng/mL以上を維持するのが望ましいとされています。ビタミンDは日光を浴びて皮膚で生成されるのですが、日焼け止めクリームを塗っていては生成されません!日焼けは避けているという方は、検査を受けてからサプリメントで2000~5000iu日々補うことをお勧めします。

  • ビタミンB12

ビタミンB12はエネルギー産生に関与し、欠乏すると倦怠感や抑うつ、消化不良、集中力の低下、末梢のヒリヒリする痛み、貧血などが起こります。

ビタミンB12は動物性食品にのみ含まれているので、菜食主義の方はビタミンB12不足になりやすく注意が必要です。ピロリ菌感染やSIBO(腸内細菌異常増殖症候群)でも欠乏を招きます。

  • フェリチン

フェリチンは鉄の貯蔵蛋白であり、不足すると倦怠感や息苦しさ、脱毛などを起こします。月経や出産による出血、ピロリ菌感染やSIBO(腸内細菌異常増殖症候群)、菜食主義、低胃酸状態、有害重金属、マンガン不足、銅過剰などもフェリチンが不足するリスクとなります。

  • 亜鉛

亜鉛は体内の様々な化学反応の触媒として機能し、腸内環境や免疫の維持、組織修復、T4からT3への変換、TSHの生成に大変重要です。腸管上皮間の密な結束を保ち、腸上皮の透過性に関与していることも知られています。

欠乏すると、免疫が低下し、アレルギーを発症したり、風邪や経気道感染を起こしやすくなります。なかなか傷が治りにくい、味覚・臭覚の障害、白斑など爪の異常も生じてきます。下痢や脱毛、食意欲低下、性欲減退、視力低下、精子減少、ADHDなども関係していることがあると言われています。

3)食物不耐症:食物アレルギー

4)消化管透過性亢進

5)肝解毒機能サポート

6)有害重金属の排除:甲状腺組織内に水銀が蓄積すると、機能が障害されることがわかっています。fish oil(オメガ3)サプリメントに水銀が含まれる場合もあり、注意が必要です。

7)ストレスへの適応力を高める